森脇靖通信3号
集う


お客様の掌に納まった瞬間
器は別の何かに変わった
受け入れてくれた人のことを
そこからじっと見つめているようだ


真っ直ぐに向き合い取り組んだことは
必ず伝わる
作り手として人間として想いを持ち
お話させていただくことは
きっと届き 響き 互いの心は共鳴する
そういうところから器の命は始まるのではないのか


制作したり畑を眺めたり
焚き火をしたり家族と過ごしたり
切り紙をしたり本を読んだり
林へ入ったりして 生きる

ここで起こることに
精一杯向き合う
これが私のしなければならないことだ


ここに佇み
訪れてくださった方と会話するごとに
私が知る製陶所という空間は
新しい空気に包まれる
私が自身を発信するこの場所は
訪れた方との会話や過ごす時間によって
育っていく場所なのだ

           2012年7月  森脇靖

| 森脇靖通信 | 22:34 |
森脇靖通信 2号
雨の多かった16日間の会期を終え
ふと庭に目をやると、ある変化に気付いた。
昨春、裏の林から庭に移した木々が
その幹の太さをぐんと増していたのだ。

 敷地内に敷かれた石はつややかに濡れ
 樹の葉からこぼれる雫が音をたてていた。
 一度として同じ調子などない。
 時折、草木が風を切る音、鳥や虫の声も混じる。
 展示室での会話の合間に
 そんな季節の気配がふっと入り込む。

 この環境に生きる自分。
 自分の手の中で形を成した器。
 そして、それを手にしてくださる方。
 皆が目の前の自然に包まれたように感じた。

 今ここにいる自分は、
 一度しかない物事の積み重ねのうえにいる。
 とらえることができるのは今という瞬間しかない。
 今、耳にする音。目にする物。
 今、交わされる言葉。沸き起こる感情。

 今を繋ぐことで自分の中の時は重なり、
 そこで初めて自分を振り返ることだけができる。
 過去に戻ることも、
 一足飛びの未来なんていうこともあり得ない。

緑の奥から蝉の鳴声がきこえてくる。
深呼吸して、向かう。
今を生きる自分を信じて。


              2011年7月 森脇靖

| 森脇靖通信 | 22:36 |
森脇靖通信 1号
この場所で
 
十周年展が終わり、展示室は静まり返っている。

自分と器と、そして器を手にする人、
それぞれが向かい合った時
この空間は生命を持ったように動き始めた。
集う人とその心、交わされる言葉、
様々な要素がこの空間の表情を作る。
会期中、日々刻々とそれは変化し、
器もその空気に強く呼応した。

自分だけがこの場所を作るのではない。
器と器、器と人、人と人、
普段は意識しない繋がりを各々が感じ
深く呼吸する時、
この場所は少しずつ作られるように思う。
  
平成二十二年 七月一日    森脇靖

| 森脇靖通信 | 22:28 |
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